沖縄返還協定を巡るスパイ活動により、毎日新聞の記者と外務省の事務官が逮捕された事件。毎日新聞が起こした数ある事件の一つである。
1972(昭和47)年、毎日新聞の政治部記者だった西山太吉が、女性事務官を誘惑して不倫関係を結び、この事実で脅し外務省の機密情報を入手した。
この、不倫関係を利用して機密情報を得ることが、果たして被告人の主張する「報道の自由」にあたるのか、どのような方法でも取材という名目なら無制限に認められるのか、などが争点となった。
最高裁まで争った結果、西山は懲役4ヶ月・執行猶予1年、女性事務官は懲役6ヶ月・執行猶予1年で、共に有罪が確定した。
つまり、このような方法はもはや取材という枠を超えている、という司法判断となった。
この事件の問題点は、次のようなものである。
情報を得た後、女性事務官は西山に捨てられた。その上、彼女は離職、離婚と、奈落の底にまで突き落とされた。
更に、西山は悪辣な手法で入手した情報を記事にはせず、政争の具として野党の質問材料に提供した。記者にあるまじき行為、良心のかけらもない行為に、批判が殺到した。
ここで暴露された機密電信は、沖縄返還に伴う軍用地の土地復元の保障で、米国が払うことになっていた約400万ドルを日本が肩代わりする、という内容である。
またこの際、女性事務官から資料が出たことが分かる通し番号を消さずに野党(日本社会党)の横路孝弘議員らに渡したため、議員は通し番号を入れたままで国会質問にコピーを提出した。
このため、番号から情報源がすぐに判明してしまった。西山は、情報源を秘匿する配慮すら、完全に無視していた。
現在、新聞報道を規制するような法令は無い。取材は、公判廷における撮影や録音等の制限を除いては一般的な法令が適用され、新聞社も自ら定めた倫理規定に基づいて取材を実施しているようであるが、基本的には今もやりたい放題の態度で取材をしている。
但し、この事件の最高裁で、取材行為として許されない限界が示された。
判例(1988(昭和63)年5月31日最高裁判決)
報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害することのできる特権を有するものではないことはいうまでもなく、取材の手段・方法も贈賄、脅迫・強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑事法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない
取材の自由は必要であるが、しかし他人の権利や公共の福祉に反してはいけない旨、示された。
様々な場で、返還時に米国に支払った総額3億2000万ドルの中に、密約とされる土地復元費用約400万ドルが含まれていたことが明らかにされている。
しかし、この暴露された密約については、現在も政府は否定している。