情報収集衛星

読み:じょうほうしゅうしゅうえいせい
品詞:固有名詞

日本における写真偵察衛星

1998(平成10)年8月31日北朝鮮からテポドンが発射され、日本の東北地方を飛び越え、太平洋に着水した。これに対する日本の対応は素早く、自民党はそれから僅か一週間後の9月7日に衛星導入の検討を開始、翌8日自民党の安全保障調査会で情報収集衛星導入の方針が固まり、政府は各省庁に衛星を利用した事業について具体的な検討を指示した。さらに12月には導入が閣議決定され、2002(平成14)年までに2,500億円をかけて、衛星4機と受信施設など地上システムを開発することとなった。

弾道ミサイル監視のためなら写真偵察衛星ではなく早期警戒衛星を導入するのが妥当だと思われるが、この根底には、米軍より得る衛星情報は一足遅いものとなる上、日本が欲する情報を米軍が必ず提供してくれるわけではないという不満が以前よりあり、テポドンの事件を理由に自前の偵察衛星を持つことを企てたのである。

しかしながらこの衛星の導入にはいくつかの障害がある。まず日本には「宇宙利用は平和の目的に限る」とした1969(昭和44)年の国会決議がある。更に打ち上げは宇宙開発事業団(NASDA)のH-ⅡAで行なうことになるが、宇宙開発事業団法やその附帯決議においてもはっきりとNASDAの活動は「平和の目的に限る」とされている。そこで生み出されたのが、1985(昭和60)年の「一般的な衛星の自衛隊による利用は平和目的に反しない」という政府見解を利用した衛星の多目的化である。沢山の目的の中に「偵察」を入れるというのである。しかし、そう簡単に多目的に出来るのならば他国で既に行なっており、それが難しいからの単能衛星なのである。日本の兵器開発に多く見られる実利無視・政治問題優先がここにも表われている。

日本が偵察衛星を開発するとなるとそのベースはNASDAの陸域観測技術衛星(ALOS)になろう。これはフランスのエリオ偵察衛星が資源探査衛星SPOTの技術を流用して開発されたことを考えると自然なことであろう。ALOSには2.5mの解像度を得られる高性能可視近赤外線放射計2型(AVNIR-2)と、夜間や曇空時でも関係なく10mの解像度が得られるフェイズドアレイ式Lバンド合成開口レーダー(PALSAR)を搭載している。ALOSは高度692kmを飛行するが、地上解像度は基本的に飛行高度に比例するので、高度を通常の偵察衛星並みの200kmにすれば1.0m以下の解像度を得ることが出来る。ここで、解像度が1m以下か否かは非常に重要なところである。というのも1mまでならば民間衛星でも達成できているものもあり、その程度の能力ならば、わざわざ軍事衛星を仕立て上げなくともそういった民間衛星から商業ベースで手に入れればいいからである。

ところで、打ち上げられる情報収集衛星は政府の発表によれば、デジタル写真を撮影する光学衛星(分解能力1m程度)と、夜間や雲のかかった地域も撮影出来るレーダー衛星(同1〜3m程度)各々2基の計4基からなり、2003(平成15)年2月と7月に2基ずつ打ち上げられることになっている。また、その性能は前者の解像度は1m程度、後者のそれは1〜3m程度で、高度400〜600kmの低軌道を南北方向に周回し、1日1回以上の定点撮影ができるとされている。高度400〜600kmが偵察衛星としては低高度とは言えないと思うが、高度を低くすれば寿命も短くなり、頻繁に衛星を打ち上げねばならなくなるが、日本の現在の打ち上げ能力でその処理能力があるかどうかは疑問が付くところであり、その危険を避けるという意味からすれば一概に批判できない。また、その高度での解像度として考えれば高いものがあると言えるが、上記のようにこれでは新規に偵察衛星を打ち上げる必要性に乏しい。1999(平成11)年5月の政府の発表によれば、解像度が1mでも十分有効な情報を入手できるとのことだが説得力に欠け、日本政府がアジア諸国を過度に刺激しないためにわざと性能を低く言っているのではないかという論者もいる。

次に金銭的な問題である。この衛星の開発主体は防衛庁ではなく内閣官房であり、その下に文部科学省、経済産業省、総務省が縦割られ、そこから宇宙開発事業団などの特殊法人や公益法人を経た後にようやく実際に衛星を造る三菱電機に辿り着く。この衛星のための費用は上記のように2,500億円なのであるが、これはエリオの開発費と同額である。とすれば妥当な額かのようにも見えるが、この様な体制で無駄無く開発が行なわれるとは到底信じられない。加えてこの数字には地上施設にかかる経費や人件費は含まれていないので、総額になると1兆円を超えることは確実であろう。

また、情報分析には300人が携わるということであるが、外務や防衛、警察、国土交通など関係省庁や電機・通信メーカーの出向者と行った雑居で成果を挙げられるか疑問である。そもそも300人という人数が判読班だけで1,000人を超えると言われるアメリカに比べて少ないと言わざるを得ない。偵察衛星から情報を得るためには長年の情報の蓄積が必要なため、最初の頃は大きな成果を期待できないものなのだが、これでは小さな成果も期待しない方がいいかもしれない。

最後の問題としてアメリカとの関係である。アメリカは今まで日本に与える情報を恣意的にコントロールすることで、日本がアメリカにとって都合のよい政治判断をするように仕向けてきたとする説もあり、日本が自分の手に偵察衛星を手に入れることをアメリカは良い顔をしないであろう。H-ⅡAロケットに対するアメリカの強硬な態度はこの偵察衛星打ち上げを阻止しようという狙いがあるという識者も居るほどである。今までアメリカ追従しか知らない日本がアメリカの不興をかこってまで偵察衛星を手に入れたいという強い意志が果してあるのであろうか?さらに一歩踏み込むともしも偵察衛星から得られた情報がアメリカからもたらされた情報と異なっていた場合どうするのであろうか?政府にはそれを公表するだけの勇気があるのであろうか?それすら無いのであれば情報収集衛星を打ち上げることによって得られるものは何も無いであろう。