商船や特務艦改造空母の日本海軍の正式呼称。
日本海軍では戦時における空母勢力の急速なる増強を目的として、三ヶ月以内に空母に改造できるように予め考慮して設計した特務艦や戦争となったときには空母に改造することを条件として商船の建造に政府が建造費の60パーセントを補助するというようなことをしていた。特務艦からの改造空母は5隻、商船からのそれは7隻あった。これ以外に日本軍が第二次世界大戦中に新たに手に入れることが出来た空母はわずか5隻、それも既に搭載する航空機が欠乏してから登場した雲龍級各艦と「信濃」を除くと「大鳳」1隻だけであり、この政策の有効性がよく分かる。
これらの空母に期待されたことは英米海軍が護衛空母に期待したこととは全く異なっていた。その差は日本海軍の「補助空母」、英米海軍の「護衛空母」という各々の呼び名によく表れている。英米海軍が後方の任務を割り当てていたのに対し、日本海軍は正規空母と同様に前線での任務を課していたのである。しかし、特務艦からの改造艦はロンドン海軍軍縮条約の適応外での建造であったため、当然空母への改造後の性能も制限されたものとなってしまったし、商船からの改造艦はその様な制限は受けなかったものの、建造主は海軍ではないので自由に建造することはできず、海軍が空母に適した商船とした6,000トン以上で19ノット以上の船舶の建造件数など殆ど無かった。またあくまでも商船として建造するわけで特に理由も無いのに大型で高速な船を造ると諸外国から怪しまれてしまうし、いかに国策とは言え、民間の船会社が経済効率を無視した船など建造できるはずが無かったのである。ところで、空母はあくまでも航空機を運用するためのプラットフォームに過ぎない。その航空機の離発着艦時の加速・減速の追加速度としての母艦の速度、そしてより長い距離を離発着艦時の滑走に使え、また甲板上の航空機の引っ張り回しに有利な大きな飛行甲板を実現するための大きな船体は重要な問題である。日本海軍は艦上機用のカタパルトを実用化できなかったので、飛行甲板サイズと最高速度への要求も一層過酷であったのである。しかし、完成した艦は隼鷹級の2隻以外いずれも低速小型なものばかりで、前線での使用に耐えることは出来なかった。中にはかなり強い風が吹いているもとでないと離発着艦が行なえない艦もあった。また、ディーゼルエンジンの技術は当時の日本ではまだまだ未熟であり、ディーゼル搭載艦は改造工事中にタービンエンジンに換装されることとなったが、これに手間取り、換装工事を行なった「龍鳳」「瑞鳳」「祥鳳」「海鷹」のいずれもが改造工事の工期に当初の3ヶ月を大幅に超える1年前後もかかってしまっているのも痛かった。それにそもそもこれらの防御力が全然無い空母を前線で使った場合の脆弱性は言わずもがなであろう。
しかし、日本はそれに気がついていなかったのではない。その様な問題点がクローズアップされる空母機動艦隊同士の決戦が行なわれると思っていなかったのである。日本海軍が描いていたのは太平洋を日本に向かって進撃してくるアメリカ艦隊を迎え撃つという洋上迎撃戦だったのである。この時に特務艦からの改造艦は戦艦部隊と行動を共にし、敵航空機を追い払ったり、戦果の拡大をすることになっており、商船からの改造空母は後方で洋上格納庫となるはずだったのである(「大鳳」「信濃」はその思想に基づき、その後方の「洋上格納庫」から飛来した航空機を最前線で待ち構え、各種補給を与えた後に攻撃へと向かわせる手筈となっていた。両艦の搭載機が少ないのは攻撃機を後方の「洋上格納庫」に依存し、自身の固有の航空機は防御用の戦闘機のみとし、余剰分を大量の航空機補給物資や装甲に費やしたからである)。予定されていたのと全然違う戦いに投入されたのが彼女たちの不幸だったのである。
では、英米海軍のように護衛空母として使っていた場合彼女たちは活躍できたのであろうか?第一線機の運用は辛くとも例えば96艦攻などの旧式機を使っての対潜任務であれば有効に使えたであろう。また,日本がカタパルトを開発できていれば彼女たちでも第一線機の運用も可能となり、活躍できたであろうという人が居る。しかし、これは大きな誤りである。なぜならばそもそも日本にはカタパルトからの射出に耐えれるような高い強度を持った機体が存在しなかったからである。
ところで、ここで視点をアメリカ側に移してみる。アメリカは自国向けに建造した艦だけでもカサブランカ級の50隻をはじめとする77隻の護衛空母を建造している。さらにはこれ以外にもエセックス級正規空母17隻、インディペンデンス級軽空母6隻も建造していた。日本側は大戦中に手に入れたあらゆる空母を合計してようやくエセックス級の数になるに過ぎない。それを考えると上の議論は全て無駄で、日本が戦前にいかに優れた国策を立てようとも、いかに戦争中に手持ちの空母を有効に使おうともアメリカの建造能力の前には同じ結果であったろうことも事実である。
コラム (補助空母リスト) 特務艦からの改造艦 ・龍鳳…元潜水母艦「大鯨」 ・瑞鳳…元給油艦「高崎」 ・祥鳳…元給油艦「剣崎」 ・千代田…元水上機母艦(艦名は同名) ・千歳…元水上機母艦(艦名は同名) 商船からの改造艦 ・飛鷹…元日本郵船「出雲丸」 ・隼鷹…元日本郵船「橿原丸」 ・大鷹…元日本郵船「春日丸」 ・沖鷹…元日本郵船「新田丸」 ・雲鷹…元日本郵船「八幡丸」 ・神鷹…元独商船「シャルンホルスト」 ・海鷹…元大阪商船「あるぜんちな丸」