抗生物質

読み:こう・せい・ぶっしつ
外語:antibiotic , 抗菌素 支那語(大陸・台湾) , antibiotik/o エスペラント
品詞:名詞

微生物によって作られる化学物質で、他の微生物(感染症の原因となる微生物)、特に細菌に作用し、その発育を阻止または死滅させる物質のこと。

現在では、化学的に合成された物質も抗生物質と呼ぶ。抗生剤とも呼ばれ、抗菌剤の原料となる。

起源

抗生物質は、1929(昭和4)年にイギリスの医学者アレクサンダー・フレミングが青黴(微生物)から摘出したペニシリンの発見が初である。

普及とその後

抗生物質という画期的な薬は感染症に対する効果が劇的で、それまでは命を落としていた病を、まるで魔法のように治してしまった。この薬の発見により、人間対菌の戦いの第一幕は終わったのである。

しかし、細菌もただやられる一方ではなかった。突然変異などで、抗生物質が効かないように変異した細菌が登場したのである。つまり抗生物質が効かない細菌が出てきた。ここから人間対細菌の終わりなき戦いの第二幕が始まったのである。

名前

抗生物質というのは、不思議な名前である。そもそも、どこで区切られているのかさえ分からない。

これは英語だと「antibiotic」で、この直訳であると考えられる。つまり、次が語源と考えられる。

  • 抗・生物・質
  • 抗・生物・物質

後述するが、抗生物質は細菌という生物にのみ有効で、生物ではないウイルス等には無効である。

なお、支那語だと「抗菌素」である。抗生物質などという意味の良く分からない言葉より、格段に分かりやすい表現といえる。

効果と種類

まず、感染症の原因には大きく、ウイルスによる「ウイルス感染」と、細菌による「細菌感染」があるが、抗生物質とはそのうちの細菌に対して効果のある薬である。ウイルスに対しては全く効果が無い。

また、叩きたい細菌によって有効な抗生物質が異なる。

簡単に言えば抗生物質が効くのは細菌、クラミジア、マイコプラズマ、リケッチアなどの微生物である。

ウイルス、、アメーバなども微生物の類いではあるが、このようなものに効くものは抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗アメーバ薬などと呼ばれ、抗生物質とは区別される。

服用

抗生物質に限らず、薬は水またはぬるま湯で飲むのが望ましい。

また服用は食後が望ましいとされる。

種類

様々な耐性菌が登場していることから、現代の医療は様々な作戦で菌に挑んでいる。

かくして現在の抗生物質は多種多様に存在し、代表的なものだけでも、次のような系統がある。

各抗生物質には、一般名に加えて数文字の英字で略号が与えられている。略号が確認できるものは、括弧で併記する。名称はその物質の新旧を問わず、原則として50音順である。

①細胞壁の合成を阻害する

細菌細胞壁を持つが、この細胞壁の合成を妨害すれば細菌は堅さを失い、破裂つまり溶菌を起こす。

このカテゴリはペニシリンやセフェム系を代表とするβ-ラクタム剤が主である。

  • β-ラクタム剤
    • ペニシリン系抗生物質
      • アモキシシリン(AMPC)
      • アンピシリン(ABPC)
      • アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)
      • オキサシリン(MPIPC)
      • カルベニシリン
      • クロキサシリン(MCIPC)
      • シクラシリン(ACPC)
      • ジクロキサシリン(MDIPC)
      • スルタミシリン(SBTPC)
      • チカルシリン(TIPC)
      • ナフシリン(NFPC)
      • バカンピシリン(BAPC)
      • ピペラシリン(PIPC)
      • ペニシリン
      • ベンジルペニシリンベンザチン(DBECPCG)
      • メチシリン(DMPPC)
    • セフェム系抗生物質
      • セファロスポリン
        • 第一世代セフェム
          • セファクロル(CCL)
          • セファゾリン(CEZ)
          • セファトリジン(CFT)
          • セファドロキシル(CDX)
          • セファピリン(CEPR)
          • セファロチン(CET)
          • セファレキシン(CEX)
          • セファロリジン(CER)
          • セフテゾール(CTZ)
          • セフラジン(CED)
          • セフロキサジン(CXD)
        • 第二世代セフェム
          • セファマンドール(CMD)
          • セフォチアム(CTM)
          • セフォチアム ヘキセチル(CTM-HE)
          • セフォニシド
          • セフォラニド
          • セフジトレン ピボキシル(CDTR-PI)
          • セフジニル(CFDN)
          • セフプロジル
          • セフロキシム(CXM)
          • セフロキシム アキセチル(CXM-AX)
        • 第三世代セフェム
          • セフィキシム(CFIX)
          • セフェタメト ピボキシル(CEMT-PI)
          • セフォジジム(CDZM)
          • セフォセリス(CFSL)
          • セフォゾプラン(CZOP)
          • セフォタキシム(CTX)
          • セフォペラゾン(CPZ)
          • セフスロジン(CFS)
          • セフタジジム(CAZ)
          • セフチゾキシム(CZX)
          • セフチブテン(CETB)
          • セフテラム ピボキシル(CFTM-PI)
          • セフトリアキソン(CTRX)
          • セフピミゾール(CPIZ)
          • セフピラミド(CPM)
          • セフポドキシムプロキセチル(CPDX-PX)
          • セフメノキシム(CMX)
          • セフカペン ピボキシル(CFPN-PI)
        • 第四世代セフェム
          • セフェピム(CFPM)
          • セフピロム(CPR)
      • セファマイシン系抗生物質
        • セフォキシチン(CFX)
        • セフォテタン(CTT)
        • セフブペラゾン(CBPZ)
        • セフミノクス(CMNX)
        • セフメタゾール(CMZ)
      • オキサセフェム系抗生物質
        • ラタモキセフ(LMOX)
        • フロモキセフ(FMOX)
    • カルバセフェム系抗生物質(カルベセフェム系)
      • ロラカルベフ(LCBF)
    • モノバクタム系抗生物質
    • カルバペネム系抗生物質
      • イミペネム(IPM)
      • エルタペネム(ETPM)
      • パニペネム(PAPM)
      • ファロペネム(FRPM)
      • メロペネム(MEPM)
  • ホスホマイシン系抗生物質
    • ホスホマイシン

②リボソームに作用し蛋白質合成を阻害する

細菌は生物であるので、リボソームを用いて自身が使用する蛋白質を合成する。

このリボソームに結合して機能を妨害すれば、細菌は蛋白質合成が出来なくなり、増殖不能となる。そしていずれ死んだり、宿主の免疫細胞に貪食されて始末される。

なお、人間のリボソームと細菌のリボソームは構造が違うため、人間の細胞には作用を示さない薬剤を作ることができる。

  • アミノ配糖体系抗生物質(アミノグリコシド系抗生物質)
    • アミカシン(AMK)
    • アルベカシン(ABK)
    • イセパマイシン(ISP)
    • カナマイシン(KM)
    • ゲンタマイシン(GM)
    • ジベカシン(DKB)
    • ストレプトマイシン(SM)
    • スペクチノマイシン(SPCM)
    • トブラマイシン(TOB)
    • ネチルマイシン(NTL)
    • フラジオマイシン(ネオマイシン)
  • オキサゾリジノン系抗生物質
  • グリコペプチド系抗生物質
  • クロラムフェニコール系抗生物質
    • クロラムフェニコール(CP)
    • チアンフェニコール(TPC)
  • ケトライド系抗生物質
    • テリスロマイシン
  • テトラサイクリン系抗生物質
    • オキシテトラサイクリン(OTC)
    • テトラサイクリン(TC)
    • デメクロサイクリン(DMC)
    • ドキシサイクリン(DOXY)
    • ミノサイクリン(MINO)
  • マクロライド系抗生物質
    • 14員環マクロライド系抗生物質
      • エリスロマイシン(EM)
      • クラリスロマイシン(CAM)
      • トロレアンドマイシン
      • ロキシスロマイシン(RXM)
    • 15員環マクロライド系抗生物質
      • アジスロマイシン(AZM)
      • ジリスロマイシン
    • 16員環マクロライド系抗生物質
      • アセチルスピラマイシン
      • キタサマイシン
      • ジョサマイシン
      • ミデカマイシン
      • ロキタマイシン
      • 酢酸ミデカマイシン
  • リンコマイシン系抗生物質
    • リンコマイシン(LCM)
    • クリンダマイシン(CLDM)

③細胞膜への攻撃

細胞膜の合成を妨害する、あるいは細胞壁に物理的な侵食を加える。

例えば、細胞脂質に作用し細胞膜を分解させる、膜に穴を開ける等の破壊的作用で、細胞内容物を菌外に流出させ死滅させる。

  • ポリペプチド系抗生物質
    • バシトラシン
    • コリスチン
    • ポリミキシンB

④核酸の合成を阻害する

細菌は生物であるので、核酸遺伝子として用いるわけである。

この合成を阻害することで、生物に必要な蛋白質合成を阻害する。菌は増殖不能となり、いずれ死んだり、宿主の免疫細胞に貪食されて始末されることになる。

妨害方法も様々考えられるが、例えばDNA鎖を強引に切断する、あるいは核酸塩基内に分子を挿入(インターカレーション)して核酸合成を機械的に阻害する、などがある。

  • RNA合成阻害
    • リファンピシン
    • ポリペプチド系抗生物質
  • DNA合成阻害
    • キノロン系抗生物質
      • 第一世代キノロン
        • キノロン
      • ニューキノロン系抗生物質(新キノロン系抗生物質)
        • エノキサシン
        • オフロキサシン(OFLX)
        • ガチフロキサシン
        • ガレノキサシン(GRNX)
        • シプロフロキサシン(CPFX)
        • スパルフロキサシン(SPFX)
        • トスフロキサシン(TFLX)
        • トロバフロキサシン
        • ナリジクス酸(NA) (別名、ナリジキシン酸)
        • ノルフロキサシン(NFLX)
        • フレロキサシン(FLRX)
        • モキシフロキサシン
        • レボフロキサシン(LVFX)
        • ロメフロキサシン(LFLX)
    • マイトマイシン
      • マイトマイシンC
    • メトロニダゾール
    • リファンピシン

⑤葉酸の合成を阻害する

核酸合成には葉酸が補酵素として働くため必要である。この補酵素の合成を阻害すれば、正常な核酸が作られなくなる。

例えばテトラヒドラ葉酸などは細菌の核酸合成系でC1転移酵素反応の補酵素として機能するが、この合成系を持たない宿主生物(人間など)にはダメージを与えない。

このため選択毒性が高く、細菌にのみ有効である。

  • サルファ剤(スルホンアミド系)
    • スルファクロルピリダジン(SCPD)
    • スルファサラジン
    • スルファジアジン(SDZ)
    • スルファジメトキシン(SDM)
    • スルファセタミド
    • スルファドキシン(SDOX)
    • スルファメチゾール
    • スルファメトキサゾール(SMXZ)
    • スルフイソキサゾール (注、日局ではイが大文字である)
    • トリメトプリム(TMP)
    • マフェニド

その他

上のいずれにも属さない系統のもの。

  • イソニアジド系抗生物質
    • イソニアジド
  • ストレプトグラミン系抗生物質
    • バージニアマイシン
    • キヌプリスチン・ダルホプリスチン
  • エタンブトール
  • ニトロフラントイン
  • ピラジナミド

副作用など

発熱の原因が細菌感染で、飲んだ抗生物質がその細菌に有効な時に限って高い効果を発揮するが、飲み過ぎた場合や不適切な服用の場合には、いろいろな副作用も起こりうるという両面性がある。

効果の有無に関らず抗菌力で腸内細菌のバランスが一時的に狂うため下痢をしやすくなるという副作用のほか、アレルギー、胃腸障礙、ショック、日和見感染(違う種類の菌が増える)などが起き得て、最悪の場合は死ぬこともある。

多用問題

日本では、原因がウイルスと考えられる軽い風邪でも抗生物質が処方されている。

結果としてウイルスは死なないのに、さほど害のない菌が死滅してしまい、元々弱い多剤耐性菌(多くの抗生物質に耐性を持つ菌)が繁殖、重大な感染症や院内感染問題などを引き起こしている。

耐性菌の歴史

抗生物質の誕生以降、人類と菌は抗争を繰り広げてきた。

耐性菌が出現する度に次の薬が発明されたが、その数年後、酷いときには同じ年に新たな耐性菌が登場している。

  • 1929(昭和4)年: フレミング、ペニシリンを発見
  • 1940(昭和15)年: フローリーらによりペニシリンが抗菌剤として有効と確認される「ペニシリンの再発見」
  • 1942(昭和17)年: 製薬会社のファイザー社設立、ペニシリンの量産に成功する
  • 数年後: ペニシリン耐性菌登場
  • 1960(昭和35)年頃: メチシリンが開発され、臨床で使用され始める
  • 1961(昭和36)年: イギリスでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が臨床分離される
  • 1976(昭和51)年頃: カルバペネムが開発され、臨床で使用され始める
  • 数年後: 多剤耐性緑膿菌(MDRPA)が発見される
  • 1986(昭和61)年: バンコマイシンが開発され、臨床で使用され始める
  • 1986(昭和61)年: バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が発見される
  • 1996(平成8)年頃: バンコマイシン低感受性黄色ブドウ球菌(VISA)が発見される
  • 2002(平成14)年6月: バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)がアメリカで臨床分離される