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真空

読み:しんくう
外語:vacuum , vaku/o エスペラント
品詞:名詞
2005/09/24 更新

何も存在しない空間のこと。とは言え本当に「何も存在しない空間」というものは、後述する様々な事情により実はあり得ない。本説明においてはまずマクロな世界(目に見える世界)、次いでミクロの世界(素粒子、量子論の世界)を述べるが、マクロな世界のみで考えても、真空と言われる宇宙空間にも僅かだが星間物質が存在する。故に厳密にはそれは真空ではないが、このような空気が著しく薄い空間を一般に真空と呼んでいる。

ちなみにJISでは「大気圧よりも低い圧力の気体で満たされた空間」と定義されており、言葉から連想される「空っぽの空間」の印象からはかなり遠いといえる。科学分野と工業分野ではかなり真空の意味が違うようだ。一つ言えることは「真空」という表現は、様々な意味を持っているということである。

真空は、紀元前の古代ギリシャ時代、デモクリトスが原子論を唱えたときに原子間の空間の概念のために導入したのが始まりである。この概念を初めて裏付けしたのは何と2000年も後の世、17世紀のトリチェリであり、水銀柱実験によってガラス管に真空を作り出した。尤も、この真空は実際には低濃度の水銀蒸気が存在するので、やはり何も無い空間というわけではない。

現在人間が人為的に生み出せる最高の真空は1000兆分の1気圧(10^−11Pa)程度である。これは1cm2の空間に分子が1万個程度存在する状態で、頑張ってももう一桁程度良くなる程度である。なお、素粒子実験などでは少なくとも1兆分の1気圧(10^−7Pa)以下が必要とされる。

このような高濃度な真空はポンプによって常に排気することで実現されるが、これを続けても実は完全な真空にはならない。なぜなら、容器の壁には様々な分子が混入しており、どんなに分子を排気して取り除いても、次から次へと容器の壁から気体分子が染み出してくるからである。人為的な真空に限界があるのはこのためである。

次に宇宙に目を向けて見ると、例えば銀河系内であれば1cm2あたり1個程度の原子(おもに水素)が存在する程度の真空である。また銀河系の外、隣の銀河までの宇宙空間であっても、1m2あたり1個程度の原子(おもに水素)は存在している。

さて、ではこの宇宙空間を考えて、1m2あたり1個しか原子がないなら、その原子の周囲は何も存在しないはずである。また、そこにある原子の構造を考えても、原子核の周囲を電子がまわるのが原子であって、それ以外には構成要素はなさそうであり、ゆえに原子の中にもまた何も無い空間が存在しそうである。

確かに、マクロな世界観では「何も無い」といえる。しかしミクロの世界つまり物理学の量子論の世界ではそうではなく、この空間には素粒子が満ちあふれているのである。従って、量子論の世界では、このような何も無いはずの原子の周辺や内部であっても、突如として電子や光子が飛び出す不思議な空間となる。

この素粒子理論においては、空間は「場」(ば)によって満たされているとする。「場」によって素粒子を考える理論を「場の量子論」といい、これが現在の素粒子理論の根底を築く考え方である。場の量子論では素粒子は場の振動で表現される。場が大きく揺れればエネルギーが多く存在し、素粒子も多数存在するとする。逆に、エネルギーが少なければ場の振動も無くなり、もって素粒子もないとする。こうして場の振動が収まった状態が真空と定義される。

そして場は、空間のあらゆる場所で常に振動している。場が大きく振動した瞬間は、真空より粒子と反粒子が対になって生まれる。これを対生成という。但しこのように真空から突如として産まれた粒子の寿命は長くはなく、概ね10の−22乗秒程度(これは1秒の1兆分の1のさらに100億分の時間)で二つの粒子は互いに衝突し、エネルギーを放出して消える。これを対消滅という。こうして場のエネルギーは元に戻り、もってエネルギー保存則(熱力学第一法則)は保たれるわけである。

このように現在素粒子物理学においては、真空は空っぽであるどころか非常に激しく変動する賑やかなものであると考えられている。より正確には真空で有る無いに限らず、素粒子の世界では何処であろうと、このように無数の粒子が対生成されては対消滅を繰り返しているのである。

最後に、真空に関連する現在科学に関わる話を幾つか紹介する。

宇宙誕生もこの真空のエネルギーが引き金となってビッグバンを引き起こしたと考えられている。その宇宙も現在では加速しながら膨張していることが確認され、それを加速させている正体不明のエネルギーはダークエネルギーと呼ばれる。ダークエネルギーの正体は諸説提案されており、現在もなお謎であるが、一説では真空のエネルギーだともされる。

また粒子に質量を与える役割を担うとされる「ヒッグス粒子」は真空の中に隠れているとも考えられている。この粒子は理論上存在が予測されているが、現在はまだ見つかっていない。

真空は現代科学においては研究の最前線の一つであり、非常に奥深いものである。魔法瓶の真空も、突き詰めて考えると壮大な宇宙理論にまで行き着くわけである。