アル・フセイン

読み:アル・フセイン
外語:Al Hussein
品詞:固有名詞

イラクの短距離弾道ミサイル。スカッド派生型。

イラクがソ連のR-17(スカッドB)をベースに射程距離を延長させたミサイル。イラクはソ連から820基のスカッドBを購入しており、それに改修を加えたものと見られている。射程延長法はペイロードを軽減させてその浮いた分を燃料にまわすというものであった。これによって射程はスカッドBの300kmから550kmと倍近くにまでなっている。これはスカッドCでとられた射程延長法と同様であるため、スカッドCを参考にしたのではないかとも言われている。アル・フセインは単純に同一の総重量の中でのペイロードと燃料への重量の配分を変えただけであったため、命中精度は低下し、CEP(半数必中界)は1,000mであった。

イラクはイラン・イラク戦争の末期にイランに向けて約190基発射したほか、湾岸戦争では43基がサウジ・アラビアへ、38基がイスラエルへ向けて発射された。スカッドBは通常弾頭の他、化学弾頭や核弾頭の搭載も可能であった。イラクの技術力では核弾頭をこのミサイルに搭載させることは不可能であったろうが、化学兵器に関してはイラン・イラク戦争時に自国のクルド人に対して使用した実績があるため、その気になればいつでも可能とみられていた。そのため、実際に搭載されているのが通常弾頭であっても外見からは判別できないため、化学弾頭かもしれないという恐怖を常に相手に与え続けることが出来た。また、その通常弾頭の被害にしても戦争には無関係な市民、それもイスラエルのユダヤ人が被害を受けているという事実をイスラエル政府が忍耐するのは非常に辛いことであった。

アメリカ政府はイスラエル政府の忍耐が切れないように飴を与えると共に実際の被害を食い止めようとペトリオットミサイル部隊を展開し、特殊部隊をイラクに侵入させ、いわゆる「スカッド狩り」を行なわさせた。しかし、アル・フセインは重量バランスが悪いため、発射後勝手に、あるいはペトリオット命中の衝撃で空中分解を起こし墜落することも多かった。しかし、もともとターゲットはなんらかの重要施設ではなく、都市であったため、目標に正しく当たらなかったとしてもさほど問題は無かった(というよりもアル・フセインの命中精度ではターゲットに正確に当てるのはほとんど不可能)。もともとアル・フセインに期待されたのは実質的な被害ではなく、政治的な効果であった。そのため、数個に空中分解することによって数発のミサイルを放っているのと同様の効果を持たせることが出来た。当初ペトリオットはアメリカ軍が守ってくれるという安心感を与えたものの、実際の被害はかえって増えてしまい、地元市民からペトリオット部隊の展開に反対も出てしまう始末となった。また、このペトリオットによる迎撃の模様は全世界のお茶の間のテレビで流されたため、その知名度も飛躍的に高まった。しかし、無知識ではなくある程度の知識がある人間からすれば上記のようにペトリオットによって食い止められた被害というものはなくその効果に疑問をはさみ、ひいてはペトリオットの性能も疑問視する者もいる。しかし、相手のミサイルはようはイスラエルのどこかに落ちればいいわけで、それを食い止めるには空中での完全なる破壊しかないがそれは極めて難しいと言えるだろう。また、空中で完全に破壊できたとしても両ミサイルの破片は落下してくるわけで、それでも被害を完全に無くすことは出来ない。そうすると如何に高性能な迎撃ミサイルであっても被害を無くすことは不可能である。そもそもミサイルとはこのような使用法をするものではなく、その責はペトリオットにあるわけではない。

一方のスカッド狩りもイラク側がアメリカの偵察衛星が自国上空にないときを見計らってTEL(Transporter Erector Launcher。輸送車兼用起立式発射機)を出撃させ、ミサイル発射後ただちに退避させたため、ほとんど効果を上げることが出来なかった。

アル・フセインは湾岸戦争後、破棄されることになり、国連の査察団によって78基が破壊された。また、イラクはさらなる射程延長型のアル・アッバス(射程900km)も持っていたが、これは湾岸戦争では使用されなかった。戦後にやはりアル・フセインと同様に破壊されている。

コラム (アル・フセインの主なスペック)
   開 発 国    イラク
   配 備 国    イラク
    種  別     短距離弾道ミサイル
プラットホーム TEL(Al Waleed、MAZ 543P、Al Nida)、固定発射台
    全  長     12.46m
    直  径     0.88m
  発 射 重 量  6,600kg強
  命 中 精 度  CEP 1,000m
  誘 導 方 式  慣性
  推 進 方 式  1段式液体(UDMH+IRFNA)
    射  程     600km
    弾  頭     単弾頭500kg(HE、核、化学、生物)