前部前頭葉切截術。
脳の一部を切除する。
発案はポルトガルのエガス・モニスである。
オリジナルの術式では、脳の切除手術といっても、きちんと頭を開け、目的の部位だけを切り取るのではない。この術式は、通常の発想を遥かに超越したものであった。
まぶたの所から目玉の上に棒を差し込み、脳の前頭葉に突き刺して、手探りでぐりぐりと動かす。そして突き刺した棒で脳をかき回して、前頭葉を部分的に破壊する。
手術と呼べるのか疑わしい大雑把さが漂い、術式を聞くだけで目や前頭葉に違和感を感じる恐ろしさだが、差し込む深さや、動かす方向と範囲も決められていたらしい。
この手術道具は現在、フィラデルフィアのダウンタウンの中央にあるムター博物館に展示されている。
術後はロボットのようになるからロボトミーなのではないか、と勘違いされることもあるが、そうではない。
ロボット(robot)とロボトミー(lobotomy)では、根本的にスペルが違う。
この手術はprefrontal lobotomyといい、「前部前頭葉切截術」という意味である。
前頭葉は、思考や判断の中心的な役割を担っている部位で、人間らしい知的活動を担う部分とされる。しかし、まだ良くわかっていないことが多い。
にも関らず、切り取ってしまう(しかも脳を)という無謀な術式を発案するに至ったというのは、まさしく脅威であると言える。
この手術を受けると、外からの刺激に無関心、無頓着となり、楽天的で、空虚な爽快感を抱くようになるとされる。しかし同時に、感動などの人間性も失ってしまう。
こういった変化が「効果」だとされた。
当時は、この手術を施された患者が、精神病院の病棟の片隅に佇む姿が見られたと言われているが、定かではない。
やがて抗精神病薬が開発され、また人権意識も高まったこともあり、1960年代以降はロボトミーは殆ど行なわれていない。
日本では、1975(昭和50)年に日本精神神経学会の「精神外科を否定する決議」が可決されたことで、正式に行なわれなくなった。
しかしそれ以前、日本でも本人の意志に反して強制的に手術するような事があったため、それを恨みに思った患者がその医師の妻と妻の母を殺害するという事件、通称ロボトミー殺人事件も起こっている。