ビッグバン宇宙論

読み:ビッグバンうちゅうろん
品詞:名詞

宇宙は、高温高密度の状態からビッグバンを起こして始まり、現在に至るまで膨張を続けている、という理論。

目次

ビッグバン

宇宙の最初の姿は、超高温超高密度の玉で、これが大爆発を起こし、そして現在でも膨張を続けているとする説である。この説を補うため、爆発直後に大膨張(インフレーション)を起こしたとする、インフレーション宇宙論と合わせて説明されることが多い。現在の科学者の多くがこれらを支持しており、いわゆる「現代宇宙論」の一つとなっている。

量子力学では、真空(無の状態)はプラスとマイナスが打ち消しあうため時間も空間も存在しないとされ、その無の状態から量子論的効果で10−34cmの大きさの宇宙が生まれた。

これが光速を遥かに超える速度で膨張(インフレーション)し、この加速膨張が終息した時に宇宙は真空エネルギーから熱エネルギーへと変化して、物質の素である素粒子を生成し始めたとされる。

起源

アルベルト・アインシュタイン一般相対性理論により、宇宙は永久不変(定常宇宙)ではなく、活動的に膨張し変化していることが示された。それを元に1927(昭和2)年にベルギーのルメートルによって「原始の原子」理論が提唱され、ジョージ・ガモフがそれを発展させて「ビッグバン宇宙論」を提唱した。後にエドウィン・ハッブルによって宇宙は実際に膨張していることが観測によって示された。

膨張がずっと続いているとすると、時間を遡れば宇宙は遥か昔、極めて小型だっただろうと容易に予想される。さらに、宇宙の物質全てが小型に圧縮されていたとなると、それは極めて高温高密度だったと考えられる。そして、この高温高密度の宇宙が爆発するかのように宇宙が始まった、とするのがビッグバン宇宙論である。

宇宙の温度が3000Kだった頃の光は現在宇宙背景放射として観測されており、また宇宙誕生から1分頃、宇宙の温度が109度の頃に軽い原子原子核が作られた証拠も見つかっている。こういった証拠から鑑みるに、宇宙がビッグバンによって誕生したことは現在ではほぼ疑いようがないと考えられている。

相転移

宇宙はこれまで、4回の相転移があった。インフレーション宇宙論を提唱した宇宙物理学者、佐藤勝彦は、この4回の相転移に番号を降って第○の相転移、のように呼んでいる。

時刻と温度に関しては様々な論があるので、ここではそのうちの一例を示す。

時刻10−44秒(温度1019GeV)
第一の相転移 (重力相互作用と他の相互作用が分離)
時刻10−36秒(温度1015GeV)
第二の相転移 (強い相互作用と電弱相互作用が分離、大統一理論の相転移)
時刻10−11秒(温度102GeV)
第三の相転移 (電弱相互作用が電磁相互作用と弱い相互作用に分離、ワインバーグ・サラム理論の相転移)
時刻10−4秒(温度10−1GeV)
第四の相転移 (クォークがハドロンに変化、QCD相転移)

今後、第五の相転移が起こるのかどうかは定かではない。

第一の相転移

誕生当初の宇宙は極めて高温高密度で、この中でクォークが生じた。これが沸騰し、空間的な広がりを持つようになり、時刻10−44秒(温度1019GeV)で重力相互作用が他の力と枝分かれした。これが第一の相転移である。

アインシュタインの一般相対性理論の時空の概念が適用できるのは、これ以降である。

第二の相転移

空間の広がりに伴う温度の急速な低下によりグルーオンが生まれ、時刻10−36秒(温度1015GeV)の頃に色の力(強い相互作用=核力)と電弱相互作用(電磁相互作用と弱い相互作用)が枝分かれした。これが第二の相転移である。

重力を除いた3種類の相互作用(電磁相互作用、弱い相互作用、核力)に関わる理論大統一理論から、大統一理論の相転移とも呼ばれる。

第三の相転移

更に空間は広がり、冷却が進むと電子が生まれ、時刻10−11秒(温度102GeV)頃に電磁相互作用と弱い相互作用が分離する。これが第三の相転移である。

現在知られる4種類の基本相互作用は、この段階で全てが揃った。この頃の宇宙の主な構成粒子は質量が100GeV(1015度相当)以下の素粒子(レプトンクォークグルーオン光子)である。

更に、この過程で物質反物質の釣り合いにズレが生じたと考えられている。元々物質と反物質は同等に存在したが、CP対称性(電荷と空間反転に対する物理法則の対称性)の破れを持つ相互作用と非平衡状態の組合わせにより僅かに物質が反物質より多くなり、現在の宇宙を物質の世界へと導いた考えられている。

電磁相互作用と弱い相互作用を統一する統一理論(ワインバーグ・サラム理論)から、ワインバーグ・サラム理論の相転移とも呼ばれる。

第四の相転移

時刻10−4秒(温度10−1GeV)になるとクォークとグルーオンからハドロン(π中間子中性子陽子など)が形成された。これを第四の相転移、または量子色力学(QCD)からQCD相転移と呼ぶ。

この頃は「光の海」とも言われる。

時刻1分頃(温度109度)には中性子と陽子から作られた重水素が分解されずに残るようになり、それらが核融合反応を起こしてヘリウムリチウムベリリウムなどの軽い原子核が合成されはじめる。なお、この頃はまだ原子核だけであり、原子としての形は整っていない。宇宙はプラズマに満たされた状態となる。

ビッグバン元素合成

宇宙は膨張を続け温度が0.1MeVにまで低下すると、中性子や陽子が核融合が始まる。これがビッグバン元素合成である。

諸説あるが早くて時刻10秒、一般的な説で時刻3分頃から核融合が始まり、これが時刻約20分まで続いた。

この時に生成されたのが、質量比で水素1が約75%、ヘリウム4が約25%であり、この時点で宇宙における元素の存在量がほぼ固定されたことになる。

宇宙の晴れ上がり

その後も宇宙は膨張を続けるとともに温度を下げ、約38万年後、温度4000度頃になると、それまで自由に飛び交っていた電子は電磁相互作用によって原子核に捉えられ、原子が形成され始める。

殆どの電子が原子核に捉えられると、電子に直進を阻まれていた光子が直進可能となり、光がさし始める。つまり、「光の海」だった宇宙は透明になった。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼ぶ。

光子エネルギーは宇宙膨張により下がるが、この頃の名残りの光子が宇宙空間を満たしており、現在では温度2.74K(−270℃)(約3K)の黒体放射、いわゆる宇宙背景放射として存在し観測されている。この放射から、宇宙の晴れ上がりから現在まで、1,100倍宇宙が膨張したことがわかっている。逆にいえば、当時の宇宙の大きさは現在の1,100分の1である。

その後

宇宙誕生2億年後には恒星が誕生、誕生9億年後に原始銀河の誕生が起こり、誕生12億年後には銀河が大規模構造を作るようになる。X線天文衛星チャンドラの観測により、宇宙誕生から10億年後には既に超大質量ブラックホールが存在していたらしいことが分かっている。

そして誕生71億年後に宇宙は減速膨張から加速膨張に切り替わった。

その後は太陽系が誕生するなどし、現在に到っていると考えられている。

はじめに

ビッグバン以前には、時間空間もなく、何もないとこから宇宙は生まれた。

但しこの説明には次のように矛盾がある。

  • ビックバン以前→「以前」という部分が時間の話になっている。時間は無いと上述した。
  • 何もないところ→「ところ」という部分が空間の話になっている。空間は無いと上述した。

従って、この時空の尺度を用いない量子力学(まだ無い)をまず考えなければ、ビッグバン以前を語ることはできない。

必要な理論

宇宙のサイズがプランクスケール(超弦理論のひもの寸法、10−33cm)より小さかった以前の状態については、現代の物理学の範疇では定義できない。それを記述する術がない。従って、現代の科学では言い表わすことができない。

例えば、量子論に対しては古典論となる一般相対性理論からでは、特異点定理により宇宙の初めは特異点になってしまう。それではブラックホールと変わらない。

従って、以前を語るためには「重力の量子論」の完成を待たねばならない。

現代での考え方

現段階での一番確からしい考え方では、その「何もない状態」から「宇宙がある」という状態に移行するのに、トンネル効果で説明が付くとはされている。

無と宇宙の間には巨大なエネルギーポテンシャルが立ちはだかるが、これを越えられたのはトンネル効果という物理現象があったからだ、とされている。

トンネル効果自体はLSIの中でも起きている一般的な現象で、このようなトンネル効果が起こることで状態は遷移できる。ただ、遷移をするためには時間は無くてはならず、上述した「時間がない」と矛盾する。

そこで、通念的な時間ではなく、メタ時間(超時間)で考える。メタ時間は単なる観念なので、ビッグバン以前にも延長して考えられるとする。こうすると、メタ時間に始まりはあるのか、無限に続くのかといった問題が出てくるが、とりあえずこの問題についてはここでは触れない。

このメタ時間のうち、ビッグバン以前のメタ時間として、スティーヴン・ウィリアム・ホーキングは「虚数時間」という概念を導入している。つまり、この頃には実数時間はなかったが、虚数時間なら存在したとする。

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